*Exhibition



*artist statement


150年前の大火に耐えた土蔵。
そのわずか3メートル四方の空間に8人の観客が入り、壁沿いの座布団に並んで座ると扉が静かに閉じられる。
漆黒と静寂の中にわずかな灯りがともると、舞踏家・今貂子が浮かび上がり
息遣いが伝わる至近の間合いのまま、45分間の舞台『秘色(ひそく)』の世界へと心がもっていかれた。

貂子さんに「貂子さんを撮りたい」と告げてから9ヶ月が過ぎた頃、
その45分間を1度だけ私が独り占めさせてもらえることが決まった。
嬉しくて泣いたのを覚えている。
まだ撮影日まで3か月ほどあったので、できるだけ公演に通い、どう撮るか考え続けた。

照明が意図的に抑えられているので感度3200フィルムを使っても露光時間が1秒を超えるような場面が多々ある。
動く被写体を写すにはギリギリのレベルだった。
もちろん「当日は自由に灯りを足して下さいね」と許可を頂いていたが、
無理に照明を足してしまったら緊張のバランスが崩れ、何かが失われるだろう。
どうしてもそれだけは避けたかった。

ひたすら暗闇の中の貂子さんを見つめながら、光がフィルムに届く場面を繰り返しシュミレーションした。
例えば微動だにしない空気の中で、彼女の指だけが少しづつ動くのを見つめながら、
その指の軌跡が光によって銀に刻まれていくのをイメージしてみる。
「今のは写ったな」とか「今のはダメだったな」と様々なシチュエーションを振り分けてみて、
最終的には大丈夫だと判断した。

本番の45分間。
8台のカメラと2つのマガジンに装填しておいたフィルムをちょうど使い切った。
今回の展示は、その45分間に撮った作品だけで構成している。
今貂子さんの全身全霊という凄まじい状態に、私も全身全霊で向き合わせてもらった。





*artist


セイリー育緒|Salley Ikuo

Film Camera Revival代表。 https://www.film-cr.com/
機械式カメラ修理歴18年。
2007年 土門拳文化賞受賞。
京都市生まれ。
東京、メキシコシティ、ハリウッド、サンフランシスコなどに暮らし、現在は再び京都市在住。
写真集「Whiskey drinking troubadour/酔いどれ吟遊詩人」(窓社)、著書「I love フィルムカメラ」(技術評論社)




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